短歌

みはるかす
新世界への
中腹に

忘れられにし
かやぶきの屋根

春の陽気に誘われ
鳥のさえずりに応えるように
春眠を抜け出した

お気に入りの散歩コースをはずれ
未知の方向に靴音を進めていく

起伏を幾つか越えながら
拓ける視界に身を委ねていく

真新しい住宅地が軒を連ね
人々の営みが段々畑になっている

その中腹に
ひっそりと佇む
かやぶきの屋根があった

時は一つの先に向かっているが
現象は唯ひとつではない

忘れられ
ものの息吹が果てようとも
きみは存在と幸いをもとめ
明滅しているのだ

遥かな旅に身を軽くし
床の間で瞳を開けた

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